雷が運営するサイト・蒼雲草のブログページ。日々のことを書き綴る予定。あくまで予定。
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ブツメツフツマというツイ企画に参加するにあたり、
世界観設定にある怪異「七億不思議」について考えをめぐらせていた。
“七不思議”の「7」に「1億」を掛け合わせて”七億不思議”というのだろうが、
この7億を英訳すると「seven hundred million」となる。
つまり「700×100万」ということなのだが、
これをムリヤリ「七百百万」と和訳して、
たとえば「ななおももよろず」と読めないか、ずっと調べていたのだ。
結論からいうと、そんな書き方や読み方をした事例は見つからなかった。
ただし、古代における位取りは、一、十、百、千、万、十万、百万、千万、
さらに万万、十万万、百万万、千万万と桁をくり上げていった、という説明を見つけた。
なかなか興味深い内容だったが、しかし、どうもこれはデタラメらしい。
神代古代でいうと、記紀には八十万神や八百万神という言い回しがある。
これらの表現は、実際に神が80万柱ないし800万柱あるということではなく、
神の数が多いこと、おびただしいことを強調する、詩的かつ慣用的な言い回しだ。
また日本書紀の神武紀には、神武天皇が、自身の祖先である天孫ニニギが地上に降臨してから
どれぐらいの年数が経過したかについて「一百七十九万二千四百七十余歳」と述べている場面がある。
「179万2470年余り」という意味だが、ま~、みごとに盛りに盛りまくった表現だ。
ともかく奈良時代には、80万、179万2470、800万といった大きな数字を表わす言い回しがあったらしいのだが、
「億」にあたる言葉は、どうも見あたらない。
もちろん「万万」や「十万万」という表現も見られない。
しかし江戸時代の算術書『塵劫記』には、ある時期における日本国内の人口について
「男は十九億九万四千八百二十八人、女は二十九億四千八百二十人、合わせて四十八億九万九千六百四十八人」と記載している。
この数値は、厩戸王(聖徳太子)の調査によるとも、行基によるともいわれるが、
いずれにしても、この場合の「億」は「十万」を意味している。
この「1億=10万」という考え方は仏典にもとづくらしく、平安時代の仏教関連の記述では多く見られる表記のようだ。
日蓮も、日本の人口について「四十九億九万四千八百二十八人」と言及しているが、ここでも「1億=10万」を意味している。
しかし鎌倉室町の軍記物では、十万や百万という用例も出てきて、億の立ち位置があいまいになっていく。
1万の1万倍としての「億」が定着するのは江戸時代以降らしく、
算術や数学が発展し、巨大な数字を扱う必要に迫られたという事情が背景にあるようだ。
※参考文献 大矢真一『比較数学史(事項別)』(富士短期大学出版部 , 1966)