雷が運営するサイト・蒼雲草のブログページ。日々のことを書き綴る予定。あくまで予定。
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小寺無人『アガシラと黒塗りの村』(産業編集センター, 2024)を読んだ。
巨人伝説をモチーフにしていると聞いて、「ほほう、それは興味深い…」と取り寄せた一冊。
ほら、俺って、研究室に「琵琶湖と富士山をつくった巨人の伝説」という論文もどきを公開しているしさ。
さてさて小説を読み始めて、まっさきに登場するのは「べったん湖」という地名。
いかにも巨人の足跡にできた沼池らしいネーミングが心をくすぐる。
次に「セイタカ様」と呼ばれる、巨大な地蔵。
つい「制多迦童子」との関連を疑ってしまったけど、ここは素直に「背高様」で良さそう。
さらに「こしかけ山」。
なるほど、山に巨人が腰かけたという伝説は各地にある。
そんな民俗好きにはたまらないキーワードが続出するかたわらで、殺人事件が発生する。
事件をめぐるミステリーと推理劇が展開されるのと並行して、
主人公・黒木は、友人から依頼された古文書の解読を進めて、
逗留先である旧家の来歴と、秘匿された村の歴史をつきとめる。
いわゆる「因習村モノ」の系譜につらねることもできそうな作品だけど、
読み心地は終始さわやか、登場人物はみな現代的な感覚を持ち合わせていて、
「因習にとらわれている」一部の登場人物の造形も、イヤミが無い。
殺人事件をめぐるミステリーも、ちゃんとミステリーミステリーしている。
衒学的、というと悪口に聞こえちゃうだろうけど(実際、辞書的にはネガティブな意味合いが強い)
こんなふうに大量の知識と豊富な情報を、読者にあびせかける、『ダ・ヴィンチ・コード』のような作品が、
俺は大好物なんだと、あらためて思った。
口承文芸研究家・安井の論説場面なんか、モロ好みだもんね。