雷が運営するサイト・蒼雲草のブログページ。日々のことを書き綴る予定。あくまで予定。
2025.10.7の記事で言及した「Kayeri」について、英字文献にあたることができた。
また、フォロワーから狂言「茸(くさびら)」について教えてもらった。
カイェリとくさびらもイラストに描き起こしたから、うpしておく。
>Mack, C. K. & Mack, D.(1998)『A Field Guide to Demons, Fairies, Fallen Angels, and Other Subversive Spirits』(New York, Owl Books, Henry Holt and Company, 1999, pp.121-122)
>山脇和泉『和泉流狂言大成(3)』(江島伊兵衛, 1918, pp.212-216)
神話や伝説に登場するキノコのモンスターについて、ずっと調べていた。
僕は、支部企画などで様々な怪物や精霊を描きたがるタチなんだけど、
そのたびに、各地の神話や伝説などの「古典」をふまえて、
モンスターを造形し、描き出すことが多い。
さいきんキノコのモンスターを描く機会があって、
いつものように神話などにあたったのだけど、
どうもキノコのモンスターが見当たらない。
キノコを神秘の霊薬として食べたり、魔術の材料にしたりという話はある。
妖精がいた痕跡といわれるキノコの輪(フェアリーサークル)の話もある。
しかし、D&Dのマイコニド、ホラー映画「マタンゴ」、FFのフンゴオンゴなど、
近代の作品に登場するキノコのモンスターはいくらでもいるが、
神話伝説由来のキノコのモンスターは、どうもいないらしい。
と思っていたのだけど、見つけた。
奈良県十津川村では、キノコが腐敗すると一本足・一つ目の一本ダタラになるというのだ。
くわえて、コロンビアやベネズエラにはKayeriという怪物の伝説があるらしい。
Kayeriは、キノコに似た帽子のようなものを頭にかぶったモンスターで
巨人もしくは巨獣の姿をとるといわれ、形は定まっていないようだ。
森に生えるキノコは、すべてKayeriの分身であるという。
雨が降ると現われ、晴れると姿を隠す。牛を好んで食べる。
>佐竹則廸 編『SFXポスター・コレクション since 1950』(実業之日本社, 1986, p.141)
>早川浩 著, Nikov 絵『RPG幻想事典』(日本ソフトバンク出版事業部, 1986)
>本多猪四郎(監督), 円谷英二(特技監督)(1963)「マタンゴ」(東宝)
>山田隆夫 編著『十津川民俗資料(1) 大和吉野郡十津川村小坪瀬及び西中記録』(民俗研究会, 1941, p.108)
>Cook, D., Hammack, A., Johnson, H. Moldvay, T., Schick, L. & Williams, S.「AD&D: Against the Slave Lords」(Renton, Wizards of the Coast, 2013, p.4)
>Gygax, G.『Advanced dungeons & dragons: Monster Manual』(Lake Geneva, TSR, 1979(4th ed), p.87)
>Gygax, G.『Advanced dungeons & dragons: Monster Manual II』(Lake Geneva, TSR, 1983, p.10)
>Schick, L.『AD&D Dungeon Module A4: In the Dungeons of the Slave Lords』(Lake Geneva, TSR, 1981, p.12)
>Wikipedia「Kayeri」(https://en.wikipedia.org/wiki/Kayeri)(2025.10.7)
明治大正期に「細胞(さいばう)」という言葉がどれほど一般市民に浸透していたのか、みたいなことを調べていた。
結論からいえば、はっきりしたことは分からなかったのだけど、思わぬ収穫があった。
NDLデジタルアーカイブで検索したところ、「体中の細胞」という言い回しが記載されている最古の辞典類は『国民百科辞典』(富山房, 1908)だった。
『日本家庭百科事彙』(富山房, 1906)にも「細胞」の項がある。
日本最初の本格的な百科事典といえば三省堂の『日本百科大辞典』だけど、「細胞(さいはう)」の項が立てられている第4巻が出版されたのは1910年だ。
『国民百科辞典』の方が2年早く、『日本家庭百科事彙』はさらに2年早い。
いずれにしろ、明治期(1868-1912) には一般市民のレベルにも「細胞」という概念が知られていた可能性はある。
さてさて「思わぬ収穫」。
『国民百科辞典』の序文には「ブリタニカなく、ラルーズなく、マヤーなき我国に於ては、此一小冊子を編纂するも、亦決して軽易なる事業に非ず」とある。
ラルーズはラルース、マヤーとはマイヤーのことで、ブリタニカ、ラルース、マイヤーといえば、それぞれ英仏独を代表する百科事典のことだ。
諸外国の辞典を見据えながら日本独自の百科事典を生み出そうとしていた、当時の富山房の気合の入り具合がうかがえる。
さらに『日本家庭百科事彙』では、諸外国における辞典の充実ぶりをふまえて、
編纂者が「かくの如き辞典を以て我国の家庭に供給せば、婚期早き婦女をして、修学年限の短きを歎ぜしむることなく、家庭の改善進歩には莫大なる効果あるべしと思惟したりき」と述べている。
当時としてはなかなか先進的な考え方だと思う。
くわえて家庭百科事彙は、諸外国の代表的な百科事典として
英国のブリタニカとチェンバーズ、米国のインターナショナル・サイクロペディアとアメリカン・サイクロペディア、
独国のマイヤーとブロックハウス、仏国のラルースを列挙している。
日本における百科事典の在り方と、諸外国の百科事典への眼差しをうかがい知ることができたのが嬉しかった、というお話。
>『日本家庭百科事彙』(富山房, 1906)
>『国民百科辞典』(富山房, 1908)
>『日本百科大辞典(4)』(三省堂, 1910)
フェアリーサークルというものがある。
草地や森の中で、キノコが輪状に並んで生えている現象や、その輪のことを、
「フェアリーサークル」や「フェアリーリング」などと呼ぶ。
英国などでは、妖精たちが輪になって踊った跡だという。
そんなフェアリーサークルについて、おもしろい話を見つけた。
「フェアリーサークルや、樹のウロのそば、テーブル状のキノコの上、小川のほとりなど、
妖精が住んでいそうだなと思った場所に、牛乳と蜂蜜を入れた小さなカップを置いておく。
戻って来たとき牛乳と蜂蜜が減っていたら、妖精が贈り物をうけとったということ。
妖精から幸運がもたらされ、人生は魔法のような出来事でいっぱいになるだろう」と。
フェアリーサークルの中に、牛乳と蜂蜜を入れたカップを置いておいて中身が減ったら、
妖精がやってきて牛乳と蜂蜜をうけとったしるしなのだという。
ただし原文では「a fairy circle of flowers and trees」とあるから、キノコの輪ではなく、
花や小木が輪状に生えたものを「フェアリーサークル」と呼んでいるっぽいのだけど。
でも、カップの置き場は「妖精が住んでいそうな場所」ならどこでも良さそうだから、
キノコの輪のフェアリーサークルの中にカップを置いても、効果がありそうな気もする。
Darcy, D.『Handbook for Hot Witches』(New York, Henry Holt and Company, 2012, p.76)
「ユニコーンは処女に従順だが、男でも、女装して香水をつかえば手懐けられる」というネタ。日本限定の与太話かもしれない、と英語文献に類話がないか調べていたら、とある子供向けの演劇の脚本に、登場人物が、ユニコーンの捕まえ方が本に記載されているのを見つける場面があった。
>パプリカ: ここよ。こう書いてある。「旅人はインド、アラビア、モロッコを探してきた。男装した者は近づくことができない。男は若い娘に変装し、服に香水をつけ、花冠をかぶり、木の下に座って愛の歌をうたわなければならない。香りに引寄せられたユニコーンは、乙女の膝に頭をのせて眠りに落ちる」
(中略)
>ピッター: (本を閉じながら)パプリカ、ユニコーンを捕まえるために、ドレスを貸してくれるかい?
>パプリカ: ここに乙女がいるのに、なぜ変装するの? わたしも一緒に森に行くわ。
>(McCallum, 1965, p.10)
直前にあるユニコーンの説明は「馬の胴、羚羊の後ろ足、獅子の尾。額にねじれた一本の角」「角の根元は白、中ほどは黒、先端は赤。体は白、頭は赤、目は青」と、古い伝承を踏まえている。女装云々も元ネタがありそうだ、と探してみたら、もっと古い資料を見つけることができた。
>インド、アラビア、モロッコに生息するというこの動物を求めて、人々は長い巡礼の旅に出たという。男は、男装したままでは近づくことができない。若い娘の服を着て変装し、服に香水をつけ、そしてユニコーンの棲み処に横たわらなければならない。狩人の衣装の香りにさそわれ、甘い匂いに引寄せられたユニコーンは、乙女と思われる者の膝に頭をのせて眠りに落ちる。
>(Holder, 1912)
細部は異なるけど、脚本の記述と、おおむね一致する。
「ユニコーンは処女に従順だが、男でも、女装して香水をつかえば手懐けられる」というネタは、英語の活字本で、とりあえず1912年までさかのぼることができた。同じ話が子供向けの百科事典『The Book of Knowledge』にも掲載されているから、それなりに由緒ある説話なのだろうと思う。
>McCallum, P.『The Uniform Unicorn』(Denver, Colorado, Pioneer Drama Service, 1965)
>Holder, C. F.「Queer Steeds」(Boys' and Girls' Bookshelf Vol.16 Part 2, New York, University Society, 1912)
>Thompson, H. & Mee, A.(Eds.)『The Book of Knowledge Vol.1』(New York, Grolier Society, 1926)